国際活動

WIPO-SCP (Standing Committee on the Law of Patents) 37h sessionへの参加

 2025年11月3日〜7日、スイス・ジュネーブで開催された世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)の第37回特許法常設委員会(Standing Committee on the Law of Patents: SCP)会合に、ライフサイエンス委員会から小柳邦生委員長及び伊藤芙美江委員長代理、有識者連携WG 特許政策チーム(以下、特許政策T)から白木良太及び佐保優一が参加しました。  
 世界各国の政府機関(特に知財関係機関)代表者がメンバーとして、認定された政府間機関や非政府組織等からの代表がオブザーバーとして、かつては年2回会議が行われていましたが、2020年以降は年1回、Hybrid開催(現地参加とWeb経由参加)の形式で開催されています。  
 SCP会合は、「特許権の例外及び制限」、「特許の質」、「特許と健康」、「特許アドバイザーと顧客とのコミュニケーションの秘密保持」及び「技術移転」の5セッションからなり、各セッションにおいて、意見表明や情報共有が進められております。  
 JIPAは世界最大級の知財ユーザー団体として本会議に参加しております。ライフサイエンス委員会は、日本製薬工業協会(製薬協)と連名で、特許制度があるからこそ人類の健康のためのイノベーションが促進され、また医薬品アクセスに対しては自発的な協力(voluntary collaboration)が重要であるとの主張、及び、国内製薬企業の医薬品アクセス向上の具体的な取り組みを紹介するステートメント(意見表明)を、事前に国際製薬団体連合会(IFPMA)や日本国特許庁とも相談の上、作成し、「特許と健康」および「技術移転」のセッションにおいてステートメントを発表しました。また、特許政策TからはSCPにおいてAI関連の議題が多くなり注目度が高まっているこの機会に日本特許庁と連携し、産業構造審議会知的財産分科会 特許制度小委員会での議論を踏まえたAI時代における発明者適格や引用文献適格性の在り方に関するステートメントを「特許と質」のセッションにおいて発表しました。  
 以下主なセッションに関して報告します。
 「特許の質」では、「特許出願の任意分割に関する実体的要件および手続要件」、「DABUS事件に関する議論を含む発明者概念に関する国内/地域法的枠組み」、「特許審査手続きにおけるAIの利用」などの議論が行われました。特に、DABUS事件に関連してAIを発明者とする新たな事例や判例が報告されました。また、外部専門家による特許性基準およびAIによる発明者資格に関する法的および政策的選択肢に関する意見交換も実施されました。AI関連のセッションでは過去数年、特許審査手続きにおける各国のAI利用の取り組みを共有することが主でしたが、今後はAIを利用した発明における発明該当性、発明者適格、及び、記載要件についてのより深い議論に軸足が移っていく模様であり、先進国と途上国が一同に会するWIPO SCPの場でそれぞれの立場での主張および議論が主になると思われました。
 「特許と健康」では、「医薬品・ワクチンに関する特許情報の公開データベースの取り組みの紹介」と、「技術支援提供報告」が行われました。「医薬品・ワクチンに関する特許情報の公開データベースの取り組みの紹介」では、医薬品やワクチンへのアクセスを改善するために、特許の有効性やライセンス状況などの情報を公衆が容易に取得できるようにすることを目的とした活動が紹介されました。「技術支援提供報告」では、WIPOの開発アジェンダ勧告14に関連し、開発途上国および後発開発途上国への技術支援の実施状況が報告されました(SCP/37/7)。  
 次回の第38回SCP(SCP38)でも、引き続き「特許権の例外及び制限」、「特許の質」、「特許と健康」、「特許アドバイザーと顧客とのコミュニケーションの秘密保持」及び「技術移転」の5つのトピックが議論される予定です。
 「特許の質」ではSCP38でも引き続き、AI発明の特許性基準や発明者に関する意見交換や、Dabus事件に関する文書の更新、AI等の特許審査手続きへの活用についての情報共有などが行われる予定です。
 「特許と健康」では、医薬品・医療技術の特許情報データベースに関する最新情報の継続的な情報共有が行われる予定であるとともに、SCP40 で再び上記SCP/37/7開発途上国および後発開発途上国への技術支援状況が更新される予定です。
 さらに「特許権の例外と制限」では、SCP38で私的・非商用利用に関する例外についての参考文書案が作成されるとともに、その次のSCP39で強制実施権・政府利用、医薬品の即時調製に関する例外について、各国の最新情報を反映した補足資料が準備されることになっています。また「技術移転」では、健康やグリーンテクノロジーにおける産学連携による技術移転のベストプラクティス・課題調査等が行われます。
 今回準備したステートメントの内容は全て発表してきました。日本特許庁の参加者からはユーザーからの実例が特許庁の発現を裏付けるものとして非常に有用であるとのご意見をいただきました。また、WIPO事務局からもJIPAが現地で積極的に情報発信を行うことは、JIPA自体のSCPにおけるプレゼンス向上にもつながるため、今後も継続的な発信が望ましいとのご意見がありました。さらに、各国特許庁の参加者からも好意的な反応が寄せられました。JIPAは今後も知財ユーザー団体として、貴重な意見を世界に発信していきます。
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