(1)事例:先願の優先権明細書に記載された「化学物質発明」の完成が争われたケースで、判断の基準として、特許庁編「物質特許制度及び多項性に関する運用基準」第一部、第1の「Ⅳ化学物質発明の成立性」「Ⅱ明細書の記載要領」及び「Ⅵ明細書の要旨変更」を適用することが妥当とされ、それに基づいて、新規な微生物を用いる?酵以外に入手方法がなかった出発化合物の製造工程が未公開の米国特許出願の番号を引用して開示され、詳細な開示がないことを理由に発明未完成とされ、先願の優先権の効果が否定された。 (2)考察1:化学物質発明の未完成の判断に当たって、前記運用基準の3項目のうち、「Ⅳ化学物質発明の成立性」および「Ⅵ明細書の要旨変更」を鉄橋することは妥当であるが、「Ⅱ明細書の記載要領」は補正可能な記載要件も含むため、これを適用することは妥当でない。 (3)考察2:発明未完性の判断の対象となる発明が「化学物質発明」である場合、「化学物質の製造方法の発明」等の完成が裏付けられているかどうかは考慮する必要がない。そして、判断の対象とならない発明の開示に当たって、未公開の自己の先願の出願番号を引用して具体的開示を省略することは、従来からの慣行として行われている。(4)考察3:微生物を利用して得られる化学物質発明の成立性には、「応用微生物工業」の審査基準をも参照すべきであり、そして、この審査基準によれば、出願時点での当業者の実施可能性は、発明の完成の要件とされていない。(5)考察1~3の点は、事例において議論されるべき事項と思われ、これらの点についても議論されていれば、結論が異なった可能性もあると思われる。 |