米国Alexandria(ヴァージニア州)のUSPTOにて開催された、第43回三極特許庁長官・ユーザ会合(2025年10月20日)、ユーザ会合(同21日)に、国際政策WGの担当理事である若代副理事長、伊東参与、宮下WGリーダ、WGメンバの田中氏、加藤氏が参加しました。
今般の三極特許庁・ユーザ会合は、昨今産業界でも注目度の高いAIを中心として以下のように、様々な議論が行われました。
- 三極特許庁長官・ユーザ会合(10月20日)
日米欧の各特許庁、WIPOおよびユーザにより、AIをとした戦略トピックに関し、意見交換が行われました。今回の会議は、USPTO長官とIPO会長の共同議長により、以下のような議題について議事が進められました。

1.1 先進的ITの活用による特許システムの強化(戦略トピック)
この戦略トピックでは、前半のセッションでは、最新の特許出願等の統計トレンドの確認と、各庁における実務へのインパクト評価について、後半のセッションでは、特許環境の変化に伴う課題に対して、特許庁や実務家がどのように対応していくかについて議論しました。
- セッション1
三極特許庁及びWIPOからの最新の特許出願の統計及び技術分野別等の分析結果について報告がありました。全体的な出願件数として、EPOは微減、JPO、USPTOは増加の傾向が報告され、WIPOから日米欧が依然としてPCTの主要なユーザであることが報告されました。出願の内訳としては、コンピュータ、情報技術、電子機器、バッテリー、半導体、輸送、バイオ関連の出願が増加傾向である旨の報告があり、AI関連の発明の増加の影響があることが説明されました。
なお、USPTOからは、審査係属案件が増加していたものの、審査官へのインセンティブ策(Awardなど)やスーパーバイザによるトレーニングにより2025年1月を境に、減少に転じた旨の報告がありました。また、AIを活用した先行技術文献の提供に関するパイロットプログラム(ASAP!)の紹介がありました。 三極ユーザを代表してAIPLAからAI応用の拡がりにより、各技術分類においてAI技術が入りこんでいる可能性があることの説明があり、特許技術分類付与の標準化が必要であること、同一技術分野内での査定率のばらつきは審査品質上問題があること、査定率の低下は審査係属期間の増大を示すため、AIを活用した効率化が必要であると説明されました。 - セッション2
このセッションでは、三極特許庁及びWIPOからAIの活用状況についての紹介がありました。特にEPOから出願、調査、機械翻訳、審査、リーガルサポートなど幅広いAIの活用状況の詳細な紹介がなされるとともに、AIは人の意思決定をサポートするもので、置き換えるものではないといったヒューマンセントリックアプローチを採用していることが共有されました。また、ANSERAといった新しいサーチツールの紹介もありました。JPOからは、世界初の電子出願システムの実現に続き、審査におけるAI活用の検討、審査における生成AIの活用について検討を進めていることが共有されました。また、現在JPOでは、AIの利活用に関する方針や留意事項などを盛り込んだAI visionの策定に向けて検討していることの紹介がありました。USPTOからは、AIを活用したCPCの自動分類の取り組み、審査係属期間の短縮、審査官のアシストに向けた情報提供の呼びかけを 行っていることについて紹介がありました。また、技術トレーニングのためにポータルサイトを開設し、新人審査官を含めた研修に力を入れていることの紹介がありました。
WIPOからは、機械翻訳、分類、類似検索等のAIツールの紹介があり、方式審査、応答作成等、さらにPCTツールとして検討していくことの説明がありました。
三極ユーザを代表してJIPAから、データドリブンマネジメントによる改善活動は推奨されるべきことであり、特に、応用が進むAIの適用先分野、紛争が生じている技術分野での審査官研修の重要性、三極特許庁におけるAI利用状況の見える化と、効果を測定するメトリックスの設定の重要性を説明するとともに、 庁内におけるAI活用促進に向けてユーザも協力できること、特に調査において三極特許庁でAIツールの相互活用、共通機能の共同開発などを検討すべきことを提言しました。

1.2 AIに関する特許法の発展についての三極特許庁の考え方
EPOからAI活用の透明性が重要であり、特許性についてはすべての技術分野に等しく適用させるべきで、検索をしっかり行うことが大事であることを説明されました。ガイドラインや特許性を肯定するケースを共有し、適切な付与を実現することも説明されました。
JPOからAIによる発明が特許制度に与える根源的な変化を認識し、発明者適格性、引例適格性、発明適格性の主要な論点を検討していること、AIが関与する発明において、人間が発明者となり得るのか、また、AIが生成した新規な技術が新規性・進歩性の要件を満たすかなど、現行法の解釈と特許法の目的に照らした調和の必要性を強調した発言が行われました。
USPTOからAIをコンピュータとして扱い、発明者は自然人であるべきという立場を基本的に維持していることの説明がありました。また、最近の特許審判部上訴審査パネルでの判断(Ex Parte Guillaume Desjardins et al.など)を紹介し、USPTOは、101条の適格性テストに基づき、抽象的なアイデアが具体的なものと統合され、実践的な利益をもたらすかどうかを重視しており、AI関連の発明についても他の特許と同様の手法で審査を進めていることの説明がありました。
JIPAから産業界を代表でして、各国特許庁の横断的な協力の可能性について提言を行いました。具体的には、審査体制、審査官研修、プロンプトなどを含むナレッジの共有について、3極特許庁での横断的な協力の余地があること、ユーザ団体としてもこれらに協力できることについてメッセージを発信しました。
1.3 特許システムに影響を与える日米欧でのAI政策の形成(パネルディスカッション)
このセッションでは、Morozova氏(Finnegan)をモデレータ、日・米・欧のそれぞれの産業界を代表してWGメンバである田中氏(富士通)、Sheridan氏(Google)、 Wainikka氏(SN Swedish)がパネリストとして参加し、ユーザ主導のパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションでは、①AIツールの透明性、②AI発明に関する法的確実性及び明確性、③トレーニング及び教育、④国際協力及び調和、⑤倫理的な使用及び責任について各国の状況を踏まえたパネリストからの説明がありました。特に、③については技術だけでなく、AI活用に関する教育の重要性、④についてはAIに関する課題の取組みの調和・協調の重要性が強調されました。また、⑤の倫理に関して、AI活用の進む企業では、AI Commitment、AIガバナンス体制、ガイドライン/マニュアルを整備することで、安心・安全なAI利用を進めていることを田中から説明し、三極特許庁でのAI Commitmentの発信について提言が行われました。



1.4 三極協調の重要性
若代副理事長を始め、他の三極ユーザ団体、三極特許庁、WIPOの各代表が第43回三極会合の意義について発言しました。
具体的には、三極会合が創造性、知識、そして国際的な協力の場であり、特に新しいアイデアや解決策のインキュベータであることに同意しました。AIに関する議論では、ツールの活用、政策や実務の確実性、そしてコラボレーションが主要なテーマとなりました。AIツールの透明性の確保、各庁が使用するツールの公開、共通の評価基準の策定、そして審査官へのトレーニングの重要性が強調されました。
各代表は、三極会合の「Think Tank」としての役割を再認識し、IP5との連携を図りつつも、独自の迅速性と闊達な議論の場として、イノベーションを推進する「ソリューションインキュベータ」として機能していくことに期待を示しました。産業界からのインプットの重要性も再確認され、今後の活動で協調して取り組むことが合意されました。
1.5 次回三極会合
次回第44回三極特許庁長官・ユーザ会合は、EPO主催で2026年10月頃に開催されることが確認されました。

- 三極ユーザ会合(10月21日)
日米欧の派遣団が一同に会して、前日の三極特許庁長官-三極ユーザ会合の振り返り、および、特許制度の実体的調和(グレースピリオド、衝突出願、先使用権)について議論を行いました。
振り返りについては、インキュベータ・シンクタンクとしての三極協調の重要性を改めて認識したこと、パネルディスカッションという新しいフォーマットの試み、ユーザの貢献(協調の提言、活用事例の共有、教育への参加等)が挙げられました
特許制度の実体的調和では、三極ユーザ間で調和案について引き続き議論を行いました。欧州メンバから提示された調和案に対するフィードバックとして、日米合同で検討をすすめている調和案を紹介し、とくにグレースピリオドについて意見交換しました。双方の案及び意見交換の内容を踏まえて、相互の認識について少数メンバで再確認した上で今後の扱いをどうするかについて検討する予定です。

