
2025年9月22日(月)~26日(金)、標章の国際登録に関するマドリッド制度の法的発展に関する作業部会第23回会合(以下、マドリッド作業部会)がジュネーブ(スイス)のWIPO本部にて開催されました。マドリッド作業部会は年に一度開催される国際会議で、国際商標登録制度に関するマドリッド協定議定書や同共通規則に関する課題の共有・規則改定等についての検討・議論が行われております。
今回も昨年、一昨年と同様にオンラインとオフラインのハイブリッド方式での開催となり、78カ国のマドリッド協定議定書締約国・地域及びオブザーバーとして20カ国のWIPO加盟国、16の商標関連非政府組織の計303名が会議に参加しました。日本からは、特許庁国際政策課他から3名が現地で参加し、オブザーバーとして日本弁理士会、日本商標協会および日本知的財産協会(以下、JIPA)が参加しました。JIPAからは商標委員会の沢本副委員長(三菱鉛筆)、杉崎副委員長(武田薬品工業)、中山副委員長(椿本チエイン)、山本副委員長(サントリーホールディングス)、恩田委員(カシオ計算機)、名取委員(ヨネックス)、新山委員(KDDI) 、福田委員(SUBARU)、藤本委員(DMMホールディングス)の9名がPosition Paperの取りまとめのうえ、沢本副委員長、中山副委員長、藤本委員が現地で、残りのメンバーは日本からオンラインで会議に参加しました。
(JIPAのPosition PaperはWIPOホームページをご覧ください:
https://www.wipo.int/edocs/mdocs/madrid/en/mm_ld_wg_23/mm_ld_wg_23_jipa_position_paper.pdf )。


本年は、「登録証と更新証明書の発行義務化」、「手続様式の変更」、「モルドバの提案(国際登録の共同出願人適格の緩和)」、「イギリスからの提案(部分更新制度の新設、マドリッド・モニターの改善等)」、「従属性」、「新言語導入」等が議題に挙がり、JIPAはこのうち「登録証と更新証明書の発行義務化」、「モルドバの提案(国際登録の共同出願人適格の緩和)」、「イギリスの提案(部分更新の新設、マドリッド・モニターの改善等)」、「従属性」及び「新言語導入」の議題に対し、会議場で意見発信を行いました。JIPAから述べた意見の概要は次のとおりです。
- 登録証と更新証明書の発行義務化
登録証と更新証明書の発行義務化を歓迎する旨を表明しました。作業文書中で指摘されていた商標権侵害訴訟の提訴やライセンス契約、フランチャイズ契約、税関の登録、模倣品対策の場面での登録証の要求の他に、ECサイトの出店時、ECサイト上の商標権侵害申告、公式SNSアカウント作成の場面で登録証を要求されている実態を紹介しました。また、ECサイトのプラットフォーマーからは英語で記載された保護認容声明は自国の公用語ではないため、内容の確からしさの確認ができないことから、保護認容声明の受付を拒否された事例も紹介しました。 - モルドバの提案(国際登録の共同出願人適格の緩和)
出願人適格として、現在の適格要件「共同出願人全員が基礎出願を行った国に登記がある又は国籍を有していること」から、A案)共同出願人のうち、一人が基礎出願を行った国に登記がある又は国籍を有しており、他の共同出願人は、マドプロ締約国に登記ある又は国籍を有していること、B案)共同出願人のうち、一人が基礎出願を行った国に登記がある又は国籍を有していること、のどちらかへ緩和する提案について、いずれにも賛成又は反対を表明しませんでした。そのうえで、JIPA商標委員会内のアンケートでは、国際登録の共同出願の経験があると回答した企業がなかったこと等により、現在の適格要件を緩和することのニーズや、そのメリットとデメリットを検討すべきであるとの意見を述べました。 - イギリスの提案(部分更新制度の新設、マドリッド・モニターの改善等)
部分更新制度の新設について、歓迎する旨の発言を行いました。また、マドリッド・モニターの改善について、現在のマドリッド・モニターにて表示されるステータスの一つである”complex”についてはより詳細な情報が必要であると意見を述べ、ユーザーフレンドリーなシステムの実現のために各指定国官庁及び国際事務局に改善を要望しました。 - 従属性
JIPAが長年にわたり訴えてきた「悪意の商標出願」について、今年4月に国際事務局より調査を実施して頂いたことについて、各方面への謝意を表明しました。また、長年議論している従属性に関し、国際事務局より本年度提案された4つの「収束可能な要素」について以下の意見を述べました。- 従属性期間の5年から3年への短縮
JIPAは許容するが、同時に「悪意の商標出願」に対する対抗手段を具備した制度であることを求める。 - 効力消滅による取消理由の制限
「悪意の商標出願が結果的に悪意以外の理由で取消がされた」ケースが想定されるため、60%近くのメンバーが反対を表明している。 - 「従属性の自動的効力の排除」を「悪意の理由」への限定
「基礎登録が悪意の商標であるものとして取消をしたいと願った第三者が、『国際登録については取消を求めない』というシチュエーションが理解できない」「明示的な要請が別途求められるのが煩雑」という意見があり、50%を超えるユーザーが反対を表明している。 - UDRPをモデルとしたADRメカニズムの導入
UDRP制度の「悪意」の認定基準の一つとして「登録商標の存在」があり、また、国際商標登録の「悪意」認定基準等多くの課題が存在するため、現段階で本要素の評価は困難である。
- 従属性期間の5年から3年への短縮
- 新言語導入
現在、作業言語として使用されているのは「英語・フランス語・スペイン語」ですが、「中国語・ロシア語・アラビア語」を使用する各国から3言語を導入する要望書が提出されたのに対し、日本としてもドイツ等と代表団を組み「日本語・ドイツ語・韓国語・ポルトガル語」の導入を提案されました。JIPAとしては代表団の意向を支持するものの、新言語を導入することによる、翻訳精度の品質問題、納期の長期化、ツールや翻訳者にかかる費用の問題など、ユーザー側への不利益が解消されない限り、いずれの言語も導入すべきではないとの意見を述べました。導入にあたっての規定が確立されていないことも指摘しました。将来的なAI技術の発展によって、翻訳精度の向上や費用・納期に関する問題解消も考えられますが、現状は分析や調査による情報が不十分で、新言語を導入するにあたっては、更なる継続的な分析・調査を行う必要があると意見を述べました。
次回の作業部会では、登録証と更新証明書の発行義務化は導入に向けた議題、モルドバの提案はA案の導入に向けた議題、従属性は今年度の作業文書の「収束可能な要素」についての具体的な検討、新言語導入は翻訳精度の品質問題、翻訳ツール・統一言語DBの技術向上に関して、また、導入のための規定の検討が議題となるものとして議論が継続される見込みです。また、登録証と更新証明書の発行義務化は必要性に関する実態調査が実施されることになり、新言語導入についても継続的に翻訳ツールの機能に関する調査や翻訳品質に関するモニタリングを行うことになったため、各議題について引き続き注目し、積極的な意見発信を行う必要があります。
これらの議題は日本ユーザーへの影響が大きく、関心も高いため、引き続きJIPAからマドプロ作業部会へ委員を現地派遣し、日本ユーザーの視点からの意見を表明して参ります。




