防衛技術の守り方(日本の秘密特許)

編著櫻井 孝 著
出版元発明推進協会 A5判 340p
発行年月日・価格2020年8月発行 3,300円(税込)

 2020年夏に,日本でも秘密特許制度の導入を検討というニュースが流れたが,それとほぼ同時期に発行された書籍である。ニュースを読まれた方は,かつて日本にも秘密特許制度があったことをご存じと思うが,本書は「秘密特許制度はこうあるべき」という内容ではなく,第二次世界大戦の終戦後に廃止された制度について,資料に基づき解説し,一部考察を加えたものである。
 秘密特許制度は,日本における最初の特許法にあたる「発明専売特許条例」の制定当初,明治18年から存在していたのには少し驚いたが,当時は富国強兵を推進していた時代であり,そういう意味ではよく考えられた内容ともいえる。本書ではその後の4度にわたる法改正の変遷と,その当時の秘密特許についても一部紹介している。
 秘密特許の最大の問題ともいえる「誰が秘密認定するか」について,秘密認定した経緯や,陸軍省と海軍省との書簡が紹介されている。陸軍省と海軍省の仲が悪かったことは有名であるが,競い合う中でも互いに協力していたという事実は興味深いものがある。
 本書で紹介している秘密特許には,航空機に関する技術も多く紹介されており,また映画でもお馴染みの堀越二郎の名前も登場する。そのほか,エンジン冷却技術という現代に通じる内容も掲載されており,当時の技術者の苦労が垣間見えるのも面白い。そんな中で個人的に興味を引いたのが,航空機ではないが,九一式徹甲弾の特許である。何十年か前に読んだ子供向けの本の中に,戦艦大和の主砲の砲弾として紹介されていた技術で,当時読んだ本では大雑把な図しかなく,なぜ効果があるのか理解できなかったが,本書ではもっと正確な願書添付の図面も掲載してあったため,図面を見て効果が納得でき,すっきりした。
 第二次世界大戦以前は,今ほどビジネスのグローバル化が進んでいないため,技術も国内で完結することが多かったと思われるが,仮に,現代において秘密特許制度を導入するとしたら,企業活動にどの様な影響があるのか,ということは気になる点である。明治30年代で秘密特許制度の導入が確認されているのは日本以外で4か国しかないが,現在では,秘密特許制度は多くの国で導入されている。他国に倣って日本にも導入する場合,軍事技術のみならず,紙幣の偽造防止等の公序に関する技術も含めるのか,その場合の問題点は,といった考察がなされており,制度導入には多大な検討が必要であることを示唆するものである。
 本書で参考にした資料は,J-PlatPat内の特許関係の資料と,国立公文書館アジア歴史資料センターのWebサイトで公開されている各種資料で,ここから情報を集めるだけでも多大な労力が掛かったと思われる。歴史書をひもとくつもりで読んでいただきたい1冊である。

(紹介者 会誌広報委員  M.I.)