| 編著 | 北元 健太 著 |
|---|---|
| 出版元 | 経済産業調査会 A5判 260p |
| 発行年月日・価格 | 2023年9月28日発行 3,300円(税込) |
本書は,オーストラリアの特許・意匠・商標法について,2012年から2021年までの知的財産制度の全面見直しを反映した上で簡潔明瞭に紹介するものである。各種制度の対比や手続きの過程等において,図表を用いた解説が随所になされており,オーストラリアの知的財産制度に携わったことがなくても理解しやすい。また,本書一冊で,特許,意匠,商標の各制度について比較しながら学ぶことができる点もよい。
オーストラリアの制度の特色はいろいろあるが,印象に残ったものを数点紹介する。まずは,特許について,①公開された特許出願は,公開日から特許付与までの期間においても,特許が付与された場合と同じ権利を有するものと扱われる。実際に権利行使できるのは特許付与後であるが,被疑侵害者は公開後の行為について損害賠償義務を負うことになっている。②文言侵害と均等侵害とを区別する概念がなく,クレームを目的論的に解釈し,クレームの文言について特許権者がどのような意味を持たせることを意図していたのかをクレーム及び明細書に接した当業者が解するかにより解釈する。また,審査経過における禁反言の法理に関して完全に否定はされていないが,困難であるとのこと。以上を踏まえると,オーストラリアで公開された特許出願に対しては,クレーム文言を目的論的に解釈して自社ビジネスへの影響を考察し,審査経過での出願人の解釈は参照しないようにする等日本での実務とはやや異なる対応が求められる。
続いて,意匠について,①意匠登録出願された意匠は形式審査のみで登録されるが,権利行使に当たっては実体審査を請求して審査証明書を得る必要がある。②意匠権(公開されただけの未登録の意匠登録出願も含む)の実施と著作権による保護が重なってしまう場合については,著作権が一定程度制限される。これにより,日本では,自らの意匠権に基づいて製品を実施したとしても,それが他人の著作権の保護の対象であるのかを別途検討する必要が生じるが,オーストラリアでは所定の場合に著作権を権利制限することで解決している。この制度は権利者と利用者のバランスをとる方法として合理的であると思った。
最後に,商標について,①使用主義を採用し,商標の使用状況によっては,競合する商標が存在しても商標登録を受けることができる制度となっており,実際に類似の登録商標が類似の商品役務で併存しているようである。なお,米国のような使用宣誓書の提出等の制度はないため,使用の証明自体は容易とのこと。
オーストラリアの特許,意匠,商標出願の日本の出願人が占める割合は,いずれも全体の5%以下である。私と同様にオーストラリアでの権利化や権利行使の経験がない方が多いと思うが,特許・意匠・商標法について過不足なく学ぶことができ,特色ある制度を知ることで日本を含めた他国の制度との比較もできるようになる良書である。
(経済産業調査会は解散のため,本書の現在の取り扱いは発明推進協会になります。)
(紹介者 会誌広報委員 T.K.)
