著作権はどこへいく? 活版印刷からクラウドへ

編著ポール・ゴールドスタイン 著
大島 義則他 訳
出版元勁草書房 四六判,344p
発行年月日・価格2024年1月発行 3,300円(税込)

 私は著作権が苦手である。他人の著作物を利用する際は適切か常に悩む。また,電子計算機への命令の集合に過ぎないプログラムが,思想又は感情を創作的に表現した著作物には思えない。このような私であるが,時代,時代に適応し続けた結果が現在の著作権の姿であることが本書を通じてわかり,苦手意識を少し払拭できた。
 本書は米国を中心とした著作権の歴史書であり,2019年に出版された第二版の翻訳である。従って2022年11月にOpenAI社がChatGPTを公開して以降,世界を席巻している生成AIに関して本文では言及されていない。しかし,著作権の歴史を本書でたどることで,生成AIに対する立法の理解が深まるものと考える。
 本書は8章で構成されている。第1章では,著作権をめぐり,著作権の保護を強める立場と,著作物の利用を強める立場という2つの立場の対立構造を概説している。著作権の歴史は,新技術に起因して生じた著作権の保護と著作物の利用と間の対立の歴史であることが本書を通じて理解できる。
 具体的には,第2章では,活版印刷,写真,映画,自動ピアノで使われるピアノロールが登場し,著作権の保護範囲を拡大してきた歴史が語られる。第3章では複写機が登場し,図書館での複写行為がフェアユースか否かの最高裁判所での攻防が臨場感ある語り口で語られる。続いて,第4章ではビデオデッキが登場し,私的複製に関する訴訟に関し,最高裁判所での舞台裏を明らかにしながら語られる。第3章,第4章は読み物として本書の白眉と言ってよい。
 第5章では,米国では著作者人格権が認められないことに関し,文化的な違いが背景にあることが語られる。恥を承知で告白するが,私は米国で著作者人格権が認められないことを本書で初めて知った。
 第6章では,インターネットファイル共有サービスが著作権を脅かしたこと,第7章では,プログラムを著作権で保護することとなった背景が語られるが,企業のキャンペーンによるものだったことがわかり,私が抱いていた疑問が少しだけ氷解した。しかし,著者はプログラムを著作権の保護対象とした事が最適解だったのかと疑問を投げかける。私も同意するところである。
 そして第8章でこれまでの歴史を踏まえ,①著作権保護対象の拡張は慎重に判断すべき,②著作権の新たな侵害態様に対して迅速に著作権を拡張すべき,という著者の処方箋が語られる。保護と利用のバランスを取る方法として一考に値する。
 本書を読むと,時代に翻弄され続けた著作権に同情を禁じえなくなるとともに日本の著作権法の各規定への理解が深まる。本書は米国中心の内容であるが,本書で語られる歴史の影響は日本の著作権法にも色濃く反映されていると思われるためである。私と同様に著作権に苦手意識のある方にお読み頂きたい。

(紹介者 会誌広報委員 H. O.)