| 編著 | ジョージ・L・コントレラス 著 上原直子 訳 |
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| 出版元 | みすず書房 四六判 544p |
| 発行年月日・価格 | 2024年3月8日発行 4,950円(税込) |
本書は,2021年に米国で発行された書籍「Gene Defense」の日本語版で,特許適格性を規定する米国101条に関する2013年の最高裁判決であるミリアド事件に関わった人々のドキュメンタリーである。本事件は,ミリアド社が取得した遺伝子特許に対してアメリカ自由人権協会(ACLU)を含む20の原告が,遺伝子に特許権を認めるべきでないとして特許無効を訴えたものである。法学と遺伝子学の教授である著者が,公開情報だけでなく,原告,ミリアド社,代理人弁護士,政府関係者,裁判官等100人以上の関係者への取材をもとに完成させた。1章では全体の4割以上を割いて訴訟を起こすまでのヒストリー,2章ではニューヨーク州地裁への提訴からCAFCの最初の判決まで,3章では最高裁判決と登場人物のその後についてのストーリーが展開される。3章の後に筆者による本事件の法的意義の解説も用意されている。
ミリアド事件は,2010-2014年に連続した101条の最高裁判決の一つであるが,特許適格性という法的技術的観点だけでなく,乳がん診断方法をめぐる女性の人権運動とヒト遺伝子特許に対する公民権運動も背景に有し,政府をも巻き込む特異な訴訟であった。本書は,適宜異なる立場や方向からこの事件を教えてくれる。それは,専門家ではないACLUの二人が周囲を巻き込んでいく戦いのドキュメンタリーでもあり,米国の特許訴訟の法廷ドラマでもあり,また,特許適格性の判断の歴史,米国の保険制度の問題,米国裁判制度の解説でもある。
原告らは,急に訴訟提起したのではなく,そこには勝つための戦略と周到な準備と種々のPR作戦があった。例えば原告適格性の検討,直前の最高裁事件へのアミカスブリーフの提出,そして誰を訴えるかの選択と勝つためのPR作戦である。ミリアド社はPRに適したターゲットとして選択されたのだ。
本書の最大の魅力は,臨場感あふれる法廷ドラマが展開され,実在の人物の関係が複雑に絡み合う点である。単離遺伝子の特許適格性の議論におけるメタファーのやりあいなどの口頭弁論のリアルな様子が伝わってくる。著名な判事が一判事だったころの様子,特許弁護士と法律弁護士の立ち位置やコンプレックス,訴訟に関わった人々のその後のキャリアも興味深い。CAFCの建物や雰囲気の記述も実際に訪れた気になれる。過去の判例や単離DNAとcDNAで異なる判断をした最高裁判決に対する筆者の見解も読者を飽きさせない。遺伝子特許と101条判例を勉強したい方だけでなく,米国訴訟を追体験したい方にもぜひ本書を手にとっていただきたい。
(紹介者 会誌広報委員 K.I.)
