| 編著 | 田村 善之,清水 紀子 著 |
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| 出版元 | 弘文堂 A5判 496p |
| 発行年月日・価格 | 2024年4月11日発行 4,620円(税込) |
本書の最大の特徴は,口語体で書かれていることである。本書は,大学での田村先生による特許法講義の録音や録画を基にして文章化された。そのため,あたかも教室の中で,田村先生の講義を受けているかのように読み進めることができる。文章表現は,平易であり,分かりやすい。文章化は,田村先生の教え子にあたる清水先生が担当されたとのこと。このように話し手と記録する人とを分けたことで,分かりやすい文章になっているように思われる。講義の中で本筋からやや脱線した話題や深い内容は,コラムにまとめられている。そのため,本文の話の流れが良い。コラムは,例えば「進歩性と創作性―特許法と著作権法の違い」や「本願発明と本件発明」等,本文の理解を深める内容であり,田村先生が長年の研究で蓄えた知識の結晶でもある。
本書の第二の特徴は,ある事柄について説明する際,冒頭で本質を捉えた概要が簡潔に説明されていることである。書き物で説明しようとすると,あれこれ加えがちであり,簡潔な説明は意外と難しいものである。その点,本書では,その事柄についての深い理解を基に口述することで,短く,枝葉が切り落とされた説明がなされている。そのような説明の一例として,均等論の説明が挙げられる。均等論は,「文言どおりのクレイム解釈では侵害にならない場合であっても,ある程度緩やかにクレイムの文言を解釈して,その外側に特許権の効力を及ぼすというものです」と説明されている。このような簡潔な説明から入っているので,知財部に配属された初学者や社内で知財研修を受講する技術者にも均等論の概要を理解しやすいものと思われる。
本書の第三の特徴は,裁判例が分かりやすく説明されていることである。例えば,ボールスプライン軸受事件最高裁判決であれば,問題となった技術がどのようなものであったかを理解するため,図に加えて,インターネットで「ボールスプライン」と検索して出てくる動画を参照することが勧められている。確かに,動画を観ずに先に図を見て事案の概要を読んだときは,技術の理解が難しかったが,4分弱の動画を観た後に,図を見るとイメージがつかみ易いと感じた。技術を具体的にイメージできた後に,均等論の趣旨を読むと理解しやすいと思われる。
私が個人的に難解と感じた均等論を例にとり,本書でそれがどのように分かりやすく説明されているかについて,その一端を紹介した。分かりやすい教科書を目指した一方で,内容に関しては,「筆者の研究の到達点を可能な限り描写することを心がけた」と田村先生が述べられているとおり,本書の解説は広く,深い。初学者だけでなく,一通り勉強した人にも薦められる教科書である。
(紹介者 会誌広報委員 T.T.
