ディープテック・スタートアップの知財・契約戦略

編著柿沼太一 編著
大瀬佳之,奥村光平,加島広基,北原悠樹,
澤井周,竹本如洋,南野研人,森田裕 著
出版元中央経済社 A5判 344p
発行年月日・価格2024年9月12日発行 4,180円(税込)

 本書は,テック系企業・スタートアップの支援に注力する柿沼弁護士が編著を務めた実務書である。長期的な研究開発と高い技術的リスクを伴いながらも,社会課題の根本的な解決を目指すディープテック・スタートアップ(以下,DTSU)の経営や成長にとって不可欠な「知財戦略」と「契約戦略」について,基本的な考え方から実務的なテクニックに至るまで,様々な具体事例を取り上げ,体系的に整理・解説された内容となっている。
 本書では,DTSUの成長過程を「研究開発フェーズ」と「事業展開フェーズ」に分け,それぞれのフェーズで求められる知財・契約戦略が具体的に解説されている。
 研究開発フェーズでは,コア技術の特許化が資金調達の前提条件となることが多く,研究成果の公開前に計画的な特許出願を行うことが不可欠である。特に,分割出願や優先権出願などを弁理士と連携して進めることが,将来的な機会損失を防ぐ鍵となる。また,大学や企業との共同研究においては,成果の帰属,改良発明の扱い,競合研究の制限などを契約で明確に定めることが,紛争予防に直結する。これらの論点を曖昧にしたまま進めると,上場や大型提携の障壁となるリスクが高まるため,初期段階から慎重な設計が求められる。
 事業展開フェーズでは,取得した知財を活用し,ライセンスアウトやアライアンス形成,ファブレス製造など多様なビジネスモデルを構築することで,収益性と柔軟性を高めることが可能となる。契約面では,情報交換(秘密保持契約),技術検証(PoC契約),共同研究(共同研究契約),ライセンス(ライセンス契約)といった各フェーズに応じた契約設計が求められる。特に「研究成果の利用条件」「改良発明の帰属」「競合開発の禁止」などの条項は,後のトラブルを防ぐために不可欠である。
 本書にはさらに,特許庁が公開するモデル契約の紹介や,契約条文例,チェックリストなども豊富に掲載されており,交渉や契約書作成の実務に直結する内容となっている。専門用語は多いものの,コラムや事例によるフォローがあるため,知財法務の専門家以外でも理解を深めやすい内容となっている。DTSUは大学・研究機関,大企業,投資家,研究者など多様なステークホルダーと長期的な関係を築く必要があるため,知財・契約の設計は法務対応にとどまらず,経営戦略そのものに直結する。知財は交渉力の源泉であり,非財務的な企業価値を示す指標にもなる。
 技術力だけでは市場に認められない時代に,知財を軸に世界と対峙するための視座を提供する本書は,起業家,研究者,支援者,実務家にとって必携の一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.A)