歴史のなかのEU法

編著山根 裕子 著
出版元有信堂高文社 A5判 336p
発行年月日・価格2023年6月発行 4,620円(税込)

 新刊書紹介の担当として本書を受け取ったとき,これは欧州の「知財関連法」をより良く知ることができる好機と考えた。だが,読了後の達成感とともに感じたことは全く別物であった。理由は,端的に言って本書は知財法解説書ではなく欧州法史学書寄りだったからである。
 本書の構成は,EC創設からEUに発展していくまでの変遷を東西対立や域外隣国の歴史を絡めつつ詳述した第Ⅰ章,第Ⅱ章からはじまる。実は,この2つの章でいきなり躓いてしまったことを白状したい。それは登場する条約,法,規則の種類の多さに混乱してしまったからである。特に条約は都度改正されるたびに締結地が付された名称が追加されるため,前のページに戻ってどの改正条約か理解してから読み進めることを余儀なくされた。すでにこの時点で,自身の生活に直接影響する(と自認する)国際法がさほどない日本はなんとありがたい国なのだろうという稚拙な思いを何度も感じたものである。裏を返せば欧州ではこれほどまでに域内外との関係を意識した動きが当たり前ということなのだろう。
 第Ⅲ章では,前章までの変遷を踏まえて生じる対外関係を規定する法,いわゆる私法について解説される。
 だが私としては,第Ⅳ章のEU憲章とそれに基づき保証される基本権の解説,つまり公法の側面が非常に興味深かった。たとえ制定当時米国統制下にあったとはいえ,他国との利害調整なく制定できた日本国憲法を意識しつつ読むとその違いが見えてきたからである。特に「個」の保証や移民等保護という考え方が非常に強くでていることが特徴的に感じた。
 第Ⅴ章,第Ⅵ章はある意味自身が専門とする領域と重複するところが多いため,浅学知識とともに深い理解を持って読み進めることができた。ただ,種々の権利の基となる条約や法においても日本よりも一歩先を見据えた動きをしていることは痛切に感じた。よく弁理士試験勉強の際,先輩から「趣旨で困ったら『国際的調和』と書け」と冗談交じりに言われていたものだが,なるほどその通りであった。
 正直に申し上げて,大学時代,その単位取得困難さから法制史の履修を忌避していた不真面目な者としては,非常に難解な内容であったことは否定しない。ただ本書に触れることで,法制史の奥深さの片鱗が見えるとともに,自身が島国国家,つまり地続き隣国がない地にいることの安心さと競争意識の希薄さとを改めて痛感することになった。結果的に,本書は人間いつでも勉強する時機は存在することを改めて認識させてくれる貴重な一冊となった。

(紹介者 会誌広報委員 K.N)