知財とパブリック・ドメイン 第1巻:特許法篇

編著田村 善之 編著
出版元勁草書房 A5判 504p
発行年月日・価格2023年1月発行 6,380円(税込)

 本書は,産業の発展に資する知的財産の創作を促進するために必要なパブリック・ドメインの醸成と利用促進を目的とした書籍であり,特許のみならず知的財産権の各法を横断的に取り扱ったものである。第1巻「特許法篇」,第2巻「著作権法篇」,第3巻「不正競争防止法・商標法篇」の全3巻で構成されており,今回紹介するのは第1巻「特許法篇」である。
 特許法においては,近年,数値限定発明やパラメータ発明などが公知技術との境界線や公知技術と重複している部分で特許権が付与され,その結果としての紛争が発生しており,パブリック・ドメインと特許権との関係について関心が高まってきている。本書は,近時の特許法とパブリック・ドメインの諸問題を取り扱ったものではなく,特許権に関する最新の諸問題を,東京大学大学院法学政治学研究科教授の田村善之先生を始め,知的財産権の各法で活躍されている錚々たる研究者の先生方が執筆者として名を連ね,各先生が研究されている特許法に関する諸問題を解説いただいている書籍である。その内容であるが,今まで発表された論文をまとめたものではなく,本書で初掲載となる論説や最新の判例も盛り込まれており,また,各章も一般的な論説の数本分にもなる分量で特許法に関する諸問題が豊富な判例などに基づいて解説されており,非常に読みごたえのあるものとなっている。
 本書は,主に特許要件,侵害の成否,救済の3つの部で構成されている。特許要件の部では,特許適格性,用途発明,パブリック・ドメインと新規性/進歩性,AIと進歩性と,網羅的な論点を詳しく論じられている。生成AIの進歩でにわかに関心が高くなっているAIと進歩性の最新の論点を本書で既に取り上げているのが驚きである。
 第3部の侵害の成否でも,広すぎる特許に対する処理,均等論,先使用権という,実務家にとって非常に関心の高い論点について詳しく解説いただいている。いずれの論点も紙面の制限がない書籍の特性を生かして,様々な視点で解説しており非常に参考になる。第4部の救済においは,差止請求権の制限,米国における特許権のミスユース,公衆衛生と特許の3つ観点で論じられており,この部においても最新の状況が既に盛り込まれている。
 このように本書は,実務家にとって関心の高い論点が全て盛り込まれたものであり,この一冊があれば様々な論説や書籍をあたる必要もなくなると思われる。本書をまとめていただいた田村先生に深く感謝したい。

(紹介者 会誌広報委員 H.N)