数値限定発明に特有の留意点の解説 ~明細書作成時から特許訴訟時まで~

編著野中 啓孝 著
出版元経済産業調査会 A5判 220p
発行年月日・価格2021年4月5日発行 2,420円(税込)

 はしがきが「当たり前のことが特許になって困っています。」という企業からの相談から始まる。特に化学会社で知財に係わる多くの方が同じ考えを持ったことがあるだろう。本書は,その様な相談を多く受けた著者が,数値限定発明の現状をまとめ,解説したものである。
 本書では各項目で判決文を多く紹介している。最終的に判断を下すのが裁判所のため,その裁判所の考え方を理解するためには判決文も読んだ方が好ましいのは言うまでもない。解説するにあたり,直ぐに参照できる様に,判決文や特許公報の該当部分も掲載してあるが,その部分は枠で囲って引用であることがすぐに分かる。判決文を読むのに慣れていない方は,そこを飛ばしても理解できる様にしてあるので,心配は無用である。
 また,数値限定発明・パラメータ発明に関して細田芳徳弁理士が著書「化学・バイオ特許の出願戦略」中で行った分類に倣い,対象とする特許がどの分類に属するかをフローチャートと共に解説している。この分類は,その後も何度か登場するため,このページに栞を挿んで読むことをお奨めする。この分類に従って特許を分類し,明細書作成する場合の注意点,他社特許に対する対応の考え方を解説している。他社特許は,タイプにより,注意すべき特許と,それほど気にしなくてよい特許が存在するため,どのタイプに分類されるかを知っておくだけでも少しは負担軽減となる。
 第2章「進歩性」,第3章「記載要件」は主に権利化に関する注意点の解説である。これらの章は,明細書作成時に参考になる。第4章「権利行使」では,例えば,権利化する時は問題とならないが,被疑侵害品における,測定バラつき,測定結果の有効数字などで,権利行使する場合に問題となった点を解説している。
 権利行使された場合の対抗手段の一つである先使用の抗弁であるが,残念ながら先使用の抗弁が認められるハードルは高いようである。そのため,如何に準備すべきかを第5章「先使用の抗弁」で提言している。
 冒頭で述べた「当たり前のことが特許になって」という点に関しては,第6章「創作物アプローチとパブリック・ドメインアプローチ」で一つの章としてまとめてある。それぞれの考え方も解説し,企業にとって腑に落ちないと思われる裁判結果が多い理由を解説している。こればかりは,最終的な判断を下すのが裁判所のためどうしようもないが,こういう考え方で審理していることを理解しておくと,対策も取りやすいであろう。
 本書は,一度読んでおしまいではなく,自身が直面している事案と照らし合わせて,どの事例に近いか,または複数の事例の間なのかを見極め,最善の策を練るのに使っていただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 M.I.)