| 編著 | 関 真也 著 |
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| 出版元 | 中央経済社 A5判 284p |
| 発行年月日・価格 | 2022年9月1日発行 3,630円(税込) |
本書は,弁護士と上級VR技術者の資格をもつ著者による,XR(VR/AR/MR)に関する法律を体系的に解説した書籍である。XR技術の実用化が進むなか,仮想現実における法的課題についても検討が始まっている。これらの法的課題を整理するには,法律知識はもちろんのこと,XRの領域にも精通している必要がある。本書は,上級VR技術者の資格を持つ著者ならではの視点で,VRやAR,MRといった概念と,これらをめぐる法的論点を分かりやすく解説している。
本書は,業務上XRの領域に携わる法務,知財の担当者にとって参考になることはもちろん,そうでなくても知財法に一定の知識がある方であれば,知的好奇心を掻き立てられるであろう。特に面白いと感じた事例と視点を一つずつ挙げたい。一つ目はXRを活用した広告の事例である。現実世界を再現したVR空間では,実際に設置された広告を他の広告と差し替えることがある。また,AR広告ではカメラが特定の広告を認識した際に重畳的に他の広告を表示することがある。この場合,元の広告主はVRやARサービスの提供者に対して何らかの請求は可能なのか。著者は実際に米国で裁判となった,映画の中で写り込む広告をデジタル技術によって他の広告に差し替えたことに関して,広告スペースの所有者等が商標権侵害(トレードドレス侵害)等を主張し,訴えを提起したケースを基に本事例を考察している。二つ目は意匠権の効力についての考察である。第三者が意匠権者に無断で登録意匠やこれに類似する意匠を実施することは意匠権侵害となるが,例えばバーチャルな衣服を再現しても意匠権侵害は成立しないと判断される可能性がある,と著者は指摘している。これは,有体物としての衣服は着用者の身体を守るなどの用途,機能を果たす物品であるのに対して,バーチャルな衣服にはそのような用途,機能はないためである。また,バーチャルな衣服を画像として表示する機器は,ヘッドマウントディスプレイやスマートフォン等であるが,これも有体物としての衣服とは用途,機能が異なる。このように,意匠の種類やその用途,機能等によっては,見た目が似ていても登録意匠の権利が及ばない場合がある。これを踏まえ,著者は,自社の市場をリアルとバーチャルのどちらに置くか,あるいは双方に置くかによって異なる意匠の保護戦略を検討すべきと説く。興味深い視点だと感じた。
XRに関わる法的実務を遂行するには,既存の法律をベースとした理解はもちろんであるが,既存の法律が想定していない論点をどのように解釈すべきか,応用力も試される。本書は海外における最新の動向も紹介しており,探求心を掻き立てられる。刺激を受けながら法的知識と思考力を涵養してくれる一冊である。
(紹介者 元会誌広報委員 K.I)
